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ウィーンフィルの響きについて、もう一度考える

 2009年の4月にウィーンを訪れたときにオペラ座で聴いた演奏がはじめてのウィーンフィルの生の音だった。4月21日、ベートーベンのフィデリオだった。
 ところが冒頭で演奏される序曲の演奏はいまひとつ。金管が音を外すし何となく音がバラバラだし、「ウィーンフィルもこんなものか?」とかなりがっかりした。オペラが始まると舞台に意識が半分奪われオーケストラの演奏に注意を払う余裕はなかったけど、第2幕第2場の前のレオノーレ第3番は圧巻だった。何がすごかったのか正直わからなかった。息をするのを忘れそうだった。初めてのウィーンオペラ座での初めてのウィーンフィルに興奮しているからかな、と自分なりに冷静に考えてみたが、曲が終わったあとの会場の拍手がその考えを否定した。前奏曲とは明らかに違う熱い拍手。鳴り止まずに次の舞台が始められない。自分の耳は間違っていなかった、と思うと同時に、やっぱりウィーンフィルはすごいな、と思った瞬間だった。

 それに先立って2008年のNHK音楽祭でフィルハーモニア管弦楽団(*1)の演奏を聴いたことがあった。その頃には既に数年N響の定演に通っていたし、その1週間前にN響の定演を同じNHKホールで聴いたばかりだったので、N響との音の差がよくわかった。弦が渋い。しっとりとした柔らかな音。ヴァイオリンの中にコケが生えてませんか?と聞きたくなるような、匂いを感じる音。また2009年のNHK音楽祭でのミラノ・スカラ座管弦楽団(*2)の弦楽器を聴いたときも同じように感じた。それに対してN響のヴァイオリンは都会的、現代的、金属的。そんな言葉が似合う気がする。一体何が違うのだろう。なぜN響と比べてこんなに音が違うのだろう。

 年末年始にNHKで海外オーケストラの特集を放送していたので、買ったばかりのDIGAで録りまくった。ウィーンフィル@サントリーホール(*3)、ロシア・ナショナル管弦楽団@サントリーホール(*4)、ベルリンフィル@モスクワ音楽院(*5)、ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団@ボン・ベートーベンホール(*6)。たまたま4つともベートーベンの交響曲第7番を演奏していたので聴き比べてみた。自宅のスピーカーで聴く演奏では微妙な音の違いはわからない。不思議だけど生でないとわからない気圧の変化のようなものがあってそれが演奏を聴くということの大きなウェイトを占めるように思う。それがN響の定演に通って得た自分なりの結論だけど、さすがに短いフレーズで聴き比べれば何かわかるだろう。テンポやリズムなどの曲作りではなくて、そのオーケストラ固有の音が。いくら録画した演奏でも、同じ曲なら、同じホールなら、違いがわかるのではないかと思った。

 散々4つの演奏を聴き比べて、ようやくわかったことがあった。残念ながら本や雑誌に書いてあるように明確な差としてわかったわけではないけど。少なくともウィーンフィルだけは違うと思った。他の3つのオーケストラに比べてヴァイオリンをはじめとする弦楽器が、1枚柔らかい布をかけて聴いているような、曲によっては物足りないと感じるような、優しい音。これに気がついたのは第4楽章の冒頭を聴き比べていた時だった。他の部分でも聴き比べたくて第2楽章の冒頭を聴き比べてみた。チェロとコントラバスの低音パートから哀愁のある旋律が始まり、ヴィオラ、ヴァイオリンに旋律が移っていくところだ。弦が中心に演奏する部分だからもっとよくわかると思ったのだ。ところがこの部分は先に書いた第4楽章冒頭に比べて大きな違いが感じられなかった。第2楽章の冒頭のように各弦楽器が単独で演奏する箇所では大きな違いがわからないのに、弦全体の合奏になると大きく違って聴こえる。ウィーンフィルの響きは個々の演奏の違いではなくオーケストラ全体の音作りで作り上げている、と言われるのはどうも真実らしい。自分の耳で、微かではあるが感じることができたのは収穫だった。

(*1)2008年12月8日 NHKホール
  2008年NHK音楽祭
  ウラディーミル・アシュケナージ指揮
  フィルハーモニア管弦楽団 諏訪内晶子(Vn)
  シベリウス フィンランディア、ヴァイオリン協奏曲、交響曲第2番

(*2)2009年9月10日 NHKホール
  2009年NHK音楽祭
  ダニエル・バレンボイム指揮 ミラノスカラ座管弦楽団&合唱団
  バルバラ・フリットリ(ソプラノ)、エカテリーナ・グバノワ(アルト)、
  ヨハン・ボータ(テノール)、ルネ・パーペ(バス)
  ヴェルディ レクイエム

(*3)2009年9月17日 サントリーホール
  ズービン・メータ指揮 ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
  バルトーク  管弦楽のための協奏曲
  ベートーベン 交響曲 第7番

(*4)2009年7月9日 サントリーホール
  ミハイル・プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団
  ベートーベン 交響曲第7番
  ベートーベン 交響曲第5番

(*5)2008年5月1日 モスクワ音楽院 大ホール
  サイモン・ラトル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  ワディム・レーピン(ヴァイオリン)
  ストラビンスキー 三楽章の交響曲
  ブルッフ     ヴァイオリン協奏曲 第1番
  ベートーベン   交響曲第7番

(*6)2009年9月11日 ボン・ベートーベンホール
  ボン・ベートーベン音楽祭2009
  パーヴォ・ヤルヴィ指揮 ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団
  ベートーベン 交響曲第6番
  ベートーベン 交響曲第7番

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