« 日フィル 第613回東京定期演奏会 | トップページ | 第1654回 N響定期演奏会 »

NHK音楽祭 バレンボイム指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団

9/10(木) 19:00~ NHKホール

ヴェルディ レクイエム

ダニエル・バレンボイム指揮

ミラノ・スカラ座管弦楽団+合唱団

ソプラノ:バルバラ・フリットリ
メゾソプラノ:エカテリーナ・グバノワ
テノール:ヨハン・ボータ
バス:ルネ・パーペ

 仕事の都合で来れるかどうかかなり不安があったが、たまたま計画変更となったおかげで年休を取れることになり、一安心。午前中にジムで一汗流し、夕方から渋谷へ向かう。

 当日の朝と出発前にぎりぎりで聴きこんできた。だいたいの構成と流れを頭に入れてきた。

 今年は秋の訪れが早く、9月はじめから涼しい日が続いており、気持ちも穏やかに渋谷の駅に降り立った。途中ドトールでアイスコーヒーとパンを買った。ちょうど6時頃NHKホールに到着。入り口では、「チケット買います」のプレートを持った人がいて、このコンサートの人気を感じた。階段を上がってすぐのソファーでパンをかじる。アイスコーヒーで身体を冷ます。

 座席で妻と一緒になり、プレトークを聴く。音楽評論家の奥田佳道さんの話だった。優しく穏やかな語り口で、楽しく聴くことができた。メゾソプラノが代役となり少し心配していたが、指揮者のバレンボイムが自ら携帯電話で話をつけ、パリに向かう予定だった代役を急遽呼び寄せたと話してくれた。代役のエカテリーナ・グバノワは東京でのミラノスカラ座初めてのレクイエムの演奏会でメゾソプラノを担当したらしい。バレンボイムの信頼の厚いエカテリーナ・グバノワに期待が高まった。突然の代役にもかかわらずいろいろ調べて話してくれたことがうれしかった。

 座席はいつも座っている3階席右側の後ろのほう。慣れた場所だ。トランペットが客席から吹くらしい。斜め前に位置していた。周りは年配が多い。1万円も払って平日の19時にくることができるのはこの世代の人たちか。本当は若い人たちが聴ければいいのにな、と思う。ウィーンの立見席を思い出した。さすがに空席は見当たらないね。

 プレトークの最後にも、また演奏前の館内放送でも、静かに終わる最後の余韻を楽しんで、ということを繰り返し言っていた。指揮者が手を下ろす前に拍手したり「ブラボー」って叫んだり、これは興ざめなので、「拍手とブラボーの掛け声は指揮者が手を下ろしてから」ってハッキリ言ったらいいのに、って思う。

 チェロの静かな和音とささやくような合唱で第1曲「入祭文とキリエ」は静かに始まった。静かだが「ポン」と転がり落ちるようにでてきた「レクイエム」という言葉にいきなり驚かされた。今のは何?合唱だと気がつくまで少し時間がかかった。まるでひとつの楽器のように美しい音だった。驚いたのもつかの間、あっという間に繊細な第1曲の美しさに引き込まれてしまった。ヴァイオリンはじめ、しっとりとした弦の美しさに鳥肌が立った。どうしてこんなに優しい音が出せるのだろう。

 第2曲「怒りの日」の最初の激しい部分ではさすがにホールの大きさと距離を感じた。先日のサントリーホールでの身体全体で感じるような迫力は感じることはできなかったが、それでも、合唱とオーケストラ、独唱の迫力には圧倒されてしまった。いつものN響のがなり立てるような強音ではなく品のある激しさ。なんとも上品。

 第2曲の激しい部分が過ぎると客席にいたトランペットとステージのオーケストラの掛け合いが始まった。今回の席ではトランペットが近すぎて全体のバランスが悪くて何がなんだかわからなかった。これは残念だった。

 独唱の4人もいままでで聴いた中で一番と思った。ネルロ・サンティのラ・ボエームの独唱がその次と思う。音量も表現力もいままで聴いたことがないものだった。確かにウィーンでのオペラ、たとえば「アルジェのイタリア女」のテノールには舌を巻いたが、オペラは視覚的にも神経を使っているせいか、特に表現力にここまで感動した覚えがない。これはコンサートの良いところかもしれない。

 つい何年か前までは海外のオーケストラや演奏にそれほど魅力を感じなかった。チケットの値段に相応する感動が得られないだろう、と思っていたからだ。それは聴く側の私たちの耳が日本のオーケストラとの差を聴き分けられるわけないと思っていたからだ。でも、N響の定期演奏会に通うようになってからは、演奏、特にヴァイオリンの音や指揮者との相性、ホールの響き方の違い、などいろいろなことに気がつくようになった。ネルロ・サンティの演奏会形式の「ラ・ボエーム」ではイタリアオペラの素晴らしさを知ることができた。これらの経験があったから、パリのオペラ座で初めてのオペラを楽しむことができたし、ウィーンでのコンサートやオペラでいろいろな差を感じることができたと思っている。生の演奏を聴くことがどれだけ感性を研ぎ澄ますのか。

 さすがにこの日の観客のマナーは良かった。曲間の咳払いは少ないし、最期の拍手もずいぶん我慢していたと思う。やればできるんだ。でも3階席の後ろで少しフライングして拍手していたな。周りの静けさに驚いたか、一度鳴り止んだけど。やはり日本人のコンサートのマナーは悪くない。

 ステージから去っていくオーケストラや合唱団の人たちを見送りながら拍手した。ステージの前まで行って手を振っている人もいた。手を振りかえしてくれていた。私も思わず手をふりました。3階席の奥から。見えないだろうなぁ。

 大きな満足感を感じてNHKホールを後にして、この感動をもう少し堪能するためにスタバに入った。初めての2階席から通りを見ていると、演奏を終えたスカラ座の人たちが三々五々歩いていく。これもまたうれしいおまけだった。真っ赤なパンツをはいたおじさんやジーンズにラフなTシャツのお兄さんなど、とうてい今ヴェルディのレクイエム演奏しました、って感じには見えない。イタリア人はすごい。

 またひとつ、いい演奏を聴いてしまった。いろいろな演奏の機微がわかるようになってうれしい反面、どんどん高い演奏会に行きたくなる自分が怖い。

|

« 日フィル 第613回東京定期演奏会 | トップページ | 第1654回 N響定期演奏会 »

演奏会日記」カテゴリの記事